AIブームで儲かっているのは、単にNVIDIAや半導体メーカーだけではありません。
実は、そのGPUやサーバーを世界へ急いで運ぶ航空会社にも“AI特需”の波が押し寄せています。
人間ならエコノミークラスで数万円。でも機体の貨物室には、とんでもなく高価な半導体や製造装置を載せて、世界各国へ飛ぶ時代になってきました。
では、もはや「人より半導体を運ぶ方が儲かる」のでしょうか。
大韓航空、ANA、JAL、エバー航空、チャイナエアライン(中華航空)、キャセイパシフィック航空の最新決算と公式資料を紐解いて見ていきます。
先に結論|AI貨物は航空会社の新しい“上客”になりつつある
結論から言えば、お客を運ぶよりも貨物の方が儲かるとまでは言えません。
航空会社の旅客と貨物では、売上の立ち方も機材の使い方もコストも異なるため、単純な勝ち負けにはできないからです。
ただし、近頃ではAI・半導体関連の貨物が航空会社にとって新しい“上客”になりつつある、という見方はかなり現実味があります。
- AIチップ、GPU、高性能メモリーは小さくても高価
- データセンターの完成や稼働を遅らせられない
- 半導体製造装置やサーバーラックは納期と扱いが重要
- 船より高い運賃を払ってでも、早く確実に運ぶ意味がある
つまり、航空会社から見ると「重量はそれほど大きくなくても、速さと品質に料金を払ってくれる貨物」です。
これまで行われてきた旅客輸送とは別の高収益分野が育ち始めた、というふうに考える方が実態に近いでしょう。

貨物量は7%、商品価値は53.5%|「軽いのに高価」の衝撃
AI関連の貨物の特徴を最も分かりやすく示すのが、IATA(国際航空運送協会)の報告です。
IATAによると、2025年に航空で運ばれた貨物のうち、AI関連製品が占める割合は、重さで見るとわずか7%でした。
例えば、航空貨物が全部で100トンあったとすれば、AI関連製品はそのうち7トンほど、というイメージです。
ところが、同じ航空貨物を商品の金額で見ると、AI関連製品は全体の53.5%を占めました。
つまり、運ばれている量はごく一部なのに、金額では航空貨物全体の半分以上をAI関連製品が占めているのです。
ここでいう金額は、航空会社が受け取る運賃や貨物収入ではありません。半導体やサーバーなど、実際に運ばれた商品そのものの貿易額です。
さらに、AI関連製品の貿易額全体のうち71.5%が航空で運ばれ、航空輸送されたAI関連品の貿易額は前年比20%増えました。
まさに「量は少ない。でも、とんでもなく高価」です。
ただし、これは世界中の貿易をすべて集計した数字ではありません。
IATAは、2015年以降、輸送手段別の貿易データを継続して報告している42カ国を対象に分析しています。この42カ国は、2025年の世界貿易額の約37%を占めます。
世界全体を網羅した統計ではないものの、AI関連製品と航空貨物がどれほど強く結びついているかを示すには、十分にインパクトのある数字です。

なぜGPUやサーバーは船ではなく空を飛ぶのか
AI向けの半導体やサーバーは、すべて航空輸送されるわけではありません。
ラックや電源・冷却設備など、大型・重量物で納期に余裕があるものは海上輸送されることもあります。
それでもGPUやネットワーク機器などを航空便に載せる理由は、単純な距離ではなく「遅れのコスト」が大きいからです。
数十億ドル規模のデータセンターを建てても、GPUやネットワーク機器などが届かなければデータセンターを稼働できません。
船による輸送で数週間待って売上開始が遅れるより、高い航空運賃を払ってでも数日で運ぶ方が合理的な場面があります。
しかも、GPUなどの先端半導体は、小さくて軽いわりに非常に高価な貨物です。
オランダの半導体メーカー、ASMLの2026年上期資料では、最先端のEXE露光装置(半導体製造装置)3台のシステム売上が計11億8,890万ユーロ(約2,197億円)、NXE装置29台が計67億850万ユーロ(約1.2兆円)でした。
単純平均では1台あたり数億ユーロ規模です。
もちろん、こうした装置は複数のモジュールや木箱に分けて輸送され、1回の航空貨物の申告価値が公表されるわけでもありません。
そのため「貨物室の1箱が必ず数百億円」とは言えません。
ただ、旅客機や貨物機の中に「人の航空券代とは桁の違う価値を持つ機器が積まれることがある」というイメージ自体は、決して大げさではありません。
大韓航空|韓国のHBMが、そのまま航空貨物の追い風に
今回の変化を最も象徴するのが大韓航空です。
同社の2026年第2四半期の貨物収入は1兆5,419億ウォン(約1,743億円)。前年同期の1兆554億ウォンから4,865億ウォン増え、伸び率は約46%でした。
大韓航空の公式発表は、世界的なAI投資の拡大、高付加価値貨物の獲得、チャーター便の運航などを増収要因に挙げています。
ロイターの記事では、AIチップ、サーバーラック、データセンター関連設備が、中国発ECに代わる主要な成長要因になっていると説明されています。
HBM(高帯域メモリー)やプロセッサーの注文は2〜3年先まで積み上がっているとのコメントもありました。
韓国にはSK hynix(SKハイニックス)やSamsung Electronics(サムスン電子)があり、AI向けGPUなどに欠かせないHBMなどの生産拠点です。
SK hynixの2026年市場見通しも、HBMを中心とするAI向けメモリー需要の急拡大を示しています。
韓国で作る高価なメモリーを北米や欧州へ急いで運ぶ大韓航空が、AIブームの“空輸側”で恩恵を受ける流れは成立しています。
ただし、貨物の好調が大韓航空全体の利益をそのまま押し上げたわけではありません。同じ第2四半期は燃料費の増加などで営業利益が前年同期比34%減りました。
「AI貨物で大儲け」とひとことで片づけられないところが、航空会社ビジネスの難しさです。
ANA|半導体輸送で稼いでいるのか
ANAについては、答えから先に申し上げますと「半導体・AI関連貨物の追い風を受けている。ただし、増収の大部分を半導体だけで説明してはいけない」です。
2025年度のANAグループは、売上高2兆5,392億円、営業利益2,174億円でともに過去最高でした。
会社側は堅調な旅客需要に加え、2025年8月にANAグループに加わった日本貨物航空(NCA)が業績へ貢献したと説明しています。
ここでも、記録更新をNCAや半導体だけの効果と見るのではなく、旅客と貨物の両方が伸びた結果と読む必要があります。
ANAホールディングスの2026年度第1四半期では、ANAとNCAを合わせた国際貨物収入が1,087億円となり、前年同期比157.2%増えました。
会社側は、半導体関連の需要、北米需要の回復、AI関連の需要を取り込んだネットワーク改善を明確に挙げています。
ただし、前年同期にはNCAがまだ連結されていませんでした。157.2%増を、そのままAI関連の貨物だけの成長率として読むのは危険です。
| 2026年度Q1 | ANA+NCA | ANA単体 |
|---|---|---|
| 国際貨物収入 | 1,087億円(+157.2%) | 583億円(+37.9%) |
| 輸送重量 | 29.1万トン(+64.2%) | 17.9万トン(+1.2%) |
| 1kg当たり単価 | 373円(+56.6%) | 325円(+36.3%) |
ここで面白いのはANA単体です。輸送重量は1.2%増にとどまる一方、収入は37.9%増え、1kg当たり単価も36.3%上がりました。
NCA連結の影響を除いても、高単価貨物と長距離需要を取り込んだ効果が見えます。
ANA+NCAの国際貨物収入を地域別に見ると、北米が51.6%、欧州が15.0%。前年同期よりそれぞれ3.5ポイント、2.4ポイント上がりました。
アジアで集めた貨物を、単価の高い長距離路線へ流す方向が数字にも表れています。
それでも増収要因は半導体だけではありません。前年に米国の関税政策で弱かった北米需要の反動、為替、燃油サーチャージ、貨物の組み合わせ、旅客便の復便なども含まれます。
「ANAの利益増加=半導体のおかげ」と単純化しない方がよいでしょう。
NCAの747が、ANAのアジア網を北米・欧州へつなぐ
ANAホールディングスは2025年8月1日、NCAを完全子会社化しました。取得時点でANA側はボーイング767貨物機6機とボーイング777貨物機2機、NCAは大型のボーイング747-8Fを8機運航していました。
この組み合わせはAI関連の貨物と相性が良さそうです。
ANAの旅客便と中型貨物機は、台北、バンコク、ハノイ、シンガポールなどアジア各地から貨物を集められます。
そこに、重量物や大型貨物を積めるNCAのB747-8Fを組み合わせ、成田から北米・欧州へ運ぶ。
旅客機の客室の下にある貨物スペースも使えるため、「人を運ぶネットワーク」がそのまま高価なAIハードウェアの集荷網になります。
ANAの2026〜2028年度中期経営戦略では、2030年に向けて国際貨物の供給規模を1.3倍へ拡大し、ANAとNCAの統合効果を300億円生み出す目標を掲げています。
重点市場はアジアから北米・欧州。2027年4月にはANA Cargo、NCA、NCA Japanを統合する計画です。
ANA Cargoも、777Fや767Fで半導体製造装置など旅客機では積みにくい特殊貨物を運び、旅客便ネットワークと組み合わせる強みを公式に説明しています。
したがって「ANAがアジアの半導体・AI貨物を北米や欧州へ運ぶ力を強めている」という見方は、会社の戦略と一致します。
JAL|13年ぶりに復活した貨物機へAIの追い風
JALは2024年2月、13年ぶりに自社貨物機の運航を再開しました。
現在は改造したボーイング767-300ER貨物機3機を使い、台北、バンコク、ハノイ、ソウルなどアジアと成田を結んでいます。
狙いは、アジアの貨物を成田へ集め、自社の貨物機や長距離旅客便のベリースペース(客室下の貨物スペース)で北米・欧州へつなぐことです。
JAL自身も、アジア貨物便と国際旅客便を組み合わせることで、長距離旅客便の収益機会を増やせると説明しています。
2026年度第1四半期の国際貨物収入は前年同期比56.4%増。JALは、アジア〜北米の強い需要、貨物機ネットワークの拡大、Cargoluxとの連携を理由に挙げました。
さらにロイターの記事では、JALは中国を除くアジア発航空輸出の増加分の約80%をテクノロジー製品が占めたと説明されています。
この80%は公開IR資料で品目別に開示された数字ではありませんが、公式決算で確認できる路線拡大と国際貨物収入の伸びは、AI・半導体貨物が新しい追い風になっているという見方を支えます。
一方、同四半期のフルサービス航空事業は、燃料費の上昇などで事業利益は8億円の損失となりました。

台湾勢|AI半導体の中心地から北米へ
台湾はTSMCを中心に、先端半導体と高度なパッケージングの世界的な集積地です。
TSMCは2026年第2四半期の説明会で、AI関連需要は非常に強く、長期のAI需要に対応するため台湾で先端製造・パッケージング工場の増設を続けると説明しました。
その台湾を拠点にするエバー航空とチャイナエアラインは、旅客だけでなく大型の貨物機も運航しています。
ただし、両社は個別の荷主名を公表していないため、「TSMCの製品を運んでいる」と断定はできません。
エバー航空|AI関連貨物が貨物収入の最大約半分
エバー航空はロイターに対し、AI関連貨物が貨物収入の最大約半分を占めると説明しました。
2025年の公式年次報告では、貨物収入が548億台湾ドル(約2,742億円)で前年比5%増。2026年もAIサーバーや半導体製造装置の強い出荷を見込んでいます。
2026年第1四半期の貨物収入は132.4億台湾ドル(約662億円)で前年同期比4.1%増でした。
伸び率だけなら大韓航空ほど派手ではありませんが、「最大約半分」という構成比は、台湾発のAI関連の貨物が同社の貨物事業でどれだけ重要になっているかを物語ります。
チャイナエアライン|上期の貨物量8.1%増、貨物収入は24.9%増
チャイナエアライン(中華航空)は、AI関連需要と東南アジア貨物便の拡大により、2026年上期の貨物量が前年同期比8.1%増えたとロイターに説明しました。
最新の上期決算では、貨物収入は401.79億台湾ドル(約2,011億円)で24.89%増。AIサーバー、半導体、情報通信機器の出荷により、貨物量だけでなく運賃も上がったとしています。
同社の2026年3月のIR資料では、2025年の貨物収入は666億台湾ドル(約3,333億円)、北米が全体の66%を占めました。
保有する貨物機はボーイング747Fが8機、ボーイング777Fが10機。台湾と北米を結ぶ太い貨物網が、AIブームの恩恵を受けやすい理由です。
キャセイ|AI貨物は積み方まで変える
キャセイパシフィック航空の2026年上期の貨物収入は138億600万香港ドル(約2,810億円)で前年同期比23.9%増、貨物量は86.9万トンで8.5%増でした。
会社側は、データセンター産業とAIブームを支える高価なテクノロジー製品が伸びたと明記しています。
注目したいのは、AI関連貨物が単に「箱数が増えた」だけではない点です。
ロイターによると、キャセイは半導体製造装置やAIハードウェアの形状や重量に応じ、機内のどこへ載せ、どう固定するかを判断するソフトウェアを導入しました。
同社の公式記事でも、半導体露光装置を運ぶ際はフォークリフトの速度を時速5km以下に抑え、地面から10〜15cmの低い位置で扱い、温度や直射日光にも配慮すると説明しています。
2024年には成田・大阪から露光装置(半導体製造装置)43台を扱い、台北発では次世代AIチップの一品目だけで約2,400トンを輸送しました。
壊れやすく高価なAI貨物は、貨物スペースを埋めれば終わりではありません。
予約、積載計画、固定、温度管理、保安、地上作業まで、航空会社のオペレーションそのものを変え始めています。
中国発ECからAI貨物へ、成長エンジンが交代
これまでアジアの航空貨物を押し上げてきたのは、SHEINやTemuに代表される中国発の越境ECでした。
安い衣料品や雑貨を小口で大量に、しかも短い納期で送るため、航空貨物の大きな需要源になっていました。
ところが米国は2025年5月、中国・香港発の低額輸入品に対するde minimis(少額貨物の免税)を終了。
EUも2026年7月から、150ユーロ以下の少額輸入品に1品目あたり3ユーロの関税を課し始めました。制度変更で中国発ECの価格優位が薄れ、伸びが鈍っています。
その一方で、AIチップやサーバー、データセンター関連機器の輸送が増加。
航空会社にとっての成長エンジンが、「小さなEC箱を大量に運ぶ」から「高価で納期優先のAI貨物を確実に運ぶ」へ移り始めています。
もちろん、ECの箱が1個減った場所にGPUが1個入るという単純な入れ替えではありません。路線、荷主、荷姿、運賃、必要な設備は異なります。
それでも、貨物需要を押し上げる主役が変わってきたと、各航空会社の動向を紐解いていくことで見えてきました。

アジアの航空貨物地図が変わる
AIのハードウェアは、ひとつの国だけで完成するわけではありません。
設計、前工程、メモリー、製造装置、パッケージング、サーバー組立がアジア各地に分かれています。
| 地域 | AI貨物での主な役割 |
|---|---|
| 日本 | 半導体製造装置、素材、精密機器 |
| 韓国 | HBM、DRAMなど高性能メモリー |
| 台湾 | 先端半導体、先端パッケージング |
| ベトナム | 電子機器、AIサーバー組立 |
| マレーシア | 半導体の後工程、電子機器、データセンター関連 |
| タイ | 電子機器・部品の製造 |
| シンガポール | 半導体製造と国際物流ハブ |
この分業を結ぶのが、台北、ソウル、成田、ハノイ、バンコク、シンガポールなどの空港です。
そこから北米・欧州のデータセンターや製造拠点へ向かう貨物流動が強くなっています。
シンガポール・チャンギ空港の2026年第2四半期の貨物取扱量は56.7万トンで前年同期比9.8%増。空港会社は、AI関連の半導体・電子機器が伸びを支えたと説明しました。
航空会社だけでなく、空港の取扱量にもAI特需が表れています。

「人を運ぶ網」が、そのままAI貨物の網になる
航空会社には、半導体メーカーや海運会社にはない強みがあります。世界中へ毎日飛ぶ旅客便のネットワークです。
ANAやJALの国際線では、乗客の座席の下にあるベリースペースへ貨物を積めます。
台北やハノイから成田へ旅客を運ぶ便が、同時に半導体や電子部品も運ぶ。成田から北米・欧州へ向かう長距離便にもつなげられます。
一方、NCA、大韓航空、チャイナエアライン、キャセイなどの貨物機は、旅客機では入らない大型の製造装置、背の高いサーバーラック、大量のパレットを運べます。
旅客便の頻度と行き先、貨物機の搭載力と自由度。その両方を持つ航空会社は、アジア各地で作られるAIハードウェアを集め、北米・欧州へ送り出す“空の物流網”を作れます。ANAがNCAを傘下に入れた意味も、ここにあります。
AI貨物はずっと伸び続けるのか
追い風は強いものの、一直線の成長が約束されているわけではありません。
- 半導体市況やデータセンター投資が冷えれば、緊急輸送も減る
- 米国の輸出規制や関税、地政学で貨物流動が変わる
- 台湾やアジアの空港・倉庫が混雑すれば処理能力が壁になる
- 旅客便が増えると貨物を運べるスペースも増えて、貨物運賃が下がる可能性がある
- 燃料費の高騰は、貨物増収を利益へつなげにくくする
実際、大韓航空やJALの最新決算では、貨物収入が大きく伸びても燃料費が利益を圧迫しました。
AI関連の貨物は強力な追い風ですが、航空会社の経営をすべて解決する魔法ではありません。
まとめ|「人より半導体」は冗談半分、でも変化は本物か
「もはや人より半導体を運んだ方が儲かる?」
この問いに、単純に「YES」とは答えられません。旅客は今も航空会社の中心であり、貨物と利益率を横並びに比べることもできません。
それでも、AIブームがNVIDIAや半導体メーカーだけで終わらず、高価なGPU、HBM、製造装置、サーバーを運ぶ航空会社まで変え始めたことは確かです。
大韓航空は韓国のAIメモリーを運び、台湾勢は先端半導体とサーバー需要を取り込み、キャセイは積載方法まで進化。
ANAはNCAの大型貨物機を手に入れ、JALは13年ぶりに復活させた貨物機へ新しい追い風を受けています。
次に旅客機へ乗るとき、少しだけ機体の下を想像してみてください。あなたのスーツケースの隣には、世界のAIを動かす半導体が積まれているかもしれません。
(もちろん、実際には手荷物と貨物は区分して積まれますが笑)










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