これまで「航空会社のステータスは、たくさん飛行機に乗って取るもの」ということが長年に渡って当たり前とされてきました。
いわゆるフライト修行です。
しかし、その前提が少しずつ揺らぎ始めています。
きっかけの一つが、2026年1月30日に発表されたANAの中期経営戦略です。
ANAが発表した2026-2028年度 中期経営戦略のポイント
ANAは、2026-2028年度の中期経営戦略において、以下の方針を打ち出しました。
- 国際線・貨物事業の拡大による収益基盤の強化
- 2028年までは羽田発着便を拡大
- 2029年の成田空港滑走路拡張後は成田線を本格拡大
- DX・航空機を中心に約2.7兆円を投資
参考資料;
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20260130-2.pdf
「2026-2028年度 ANAグループ中期経営戦略を策定(2026年1月30日)」
一連の戦略自体は、航空会社として極めて順当な内容です。
ただし、修行界隈で特に注目を集めたのは、別の項目でした。
株主還元で「ダイヤモンド特典」を付与
ANAは今回の戦略の中で、長期・大口の個人株主向けに新たな特典制度を導入すると発表しました。
その内容は以下の通りです。
- 毎年9月末の基準日において
- 3年以上(7基準日)連続で
- 同一株主番号で 2万株以上 保有している個人株主
これらの条件を満たした株主に対し、ANA最上級ステータス「ダイヤモンドサービス」の一部特典を付与するというものです。
修行なしでANAダイヤモンド?現実的なハードル
2026年2月2日時点のANA株価(終値)は3,108円です。
2万株を保有する場合、必要な資金は約6,216万円になります。
正直に言えば、誰もが気軽に到達できるラインではありません。
この施策は、一般利用者向けではなく富裕層の囲い込みを明確に意識したものと思われます。
「ダイヤモンドの一部特典」のみ付与という重要な線引き
ANAの発表文には、次のような表現があります。
…当社普通株式を長期にわたり保有いただいている大口の株主様(※)を対象に、日頃の感謝を込めて、ANA の
最上級ステイタスである「ダイヤモンドサービス」の一部特典をご体験いただける制度を新設します。
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20260130-2.pdf
「2026-2028年度 ANAグループ中期経営戦略を策定(2026年1月30日)」
「ダイヤモンドサービスの一部特典をご体験いただける制度」と書かれている部分が最大のポイントです。
つまり、ダイヤモンドの特典がすべて付与されるわけではないことが示唆されています。
想定されるのは、
- 専用チェックインカウンター
- 優先保安検査
- 手荷物優遇
- ラウンジ利用
- 優先搭乗
といった、搭乗時のサービス面です。
大口の株主様が搭乗する際には、ファーストクラスなどの上級座席に座るお客様と同等、あるいはそれに近い地上サービスが付与されるといった形になる可能性も考えられます。
一方で、
- 特典航空券の優先
- 座席のアップグレードの優先
については、日頃からANAのフライトを継続的に利用している会員を優遇するといった線引きを行う可能性があるかもしれません。
航空会社の立場から見れば、
- 定期的に搭乗してくれる
- 収益に直接貢献している
といった利用者を優先するのは極めて合理的な判断と言えるでしょう。
そのため、株主としての関係性を一定評価しつつも、特典航空券やアップグレードのような中核的な優遇については、あくまでフライト実績を重視するという線引きがなされる可能性は十分にあります。
そもそも大口株主は、既にダイヤモンドの可能性も…
冷静に考えれば、6,000万円超の株式を長期保有できる層であれば、
- すでにANAダイヤモンド会員
- あるいは修行を必要としない搭乗スタイル
である可能性も高いはずです。
その意味では、今回の制度は「修行の代替」というより
- ANAと株主との関係性をより強固にする
- 株主へのロイヤルティ演出
という側面が強いと推測されます。
海外ではすでに「資産でステータス」の例も
実は、資産を軸にステータスを付与する仕組みは、海外では珍しくありません。
① スカンジナビア航空(SAS)の株主プログラム(※終了)
北欧を拠点とするスカンジナビア航空(SAS)では、2020年10月から株主向けにステータス付与プログラムを実施していました。
対象となっていたのは、SASのロイヤリティプログラムであるEuroBonusです。
当時の付与内容は以下の通りでした。
- 10万株以上保有:EuroBonus Gold(スターアライアンスゴールドを含む)
- 100万株以上保有:EuroBonus Diamond(スターアライアンスゴールドを含む)
参考資料;
https://www.sasgroup.net/newsroom/press-releases/2020/sas-launches-new-shareholder-program
「SAS launches new shareholder program(2020年10月14日)」
ただし、この制度には重要な制約があり、デンマーク・ノルウェー・スウェーデンのいずれかの永住者に限定して実施されていました。
その後、SASは経営難に直面し、この株主向けステータス付与プログラムは終了しています。
現在は、エールフランスKLM などの支援を受けて再建が進められ、2024年に再建手続きを完了しました。
それに伴い、アライアンスもスターアライアンスから スカイチーム へ移籍しました。
② 銀行口座・クレジットカード経由でのステータス付与
航空会社そのものではありませんが、スターアライアンス加盟航空会社で優遇を受けられるスターアライアンスゴールド相当のステータスを、銀行・クレジットカード経由で取得できるケースも存在します。
その代表例が、HSBCです。
HSBCは、イギリスを本拠地とする世界最大級の金融グループです。
海外では、富裕層向けの銀行サービスやクレジットカードを通じて、航空会社やホテルの上級会員資格と連動した特典を提供する例も珍しくありません。
その一つが、HSBCオーストラリアが発行するスターアライアンス提携クレジットカードです。

引用;
https://www.hsbc.com.au/credit-cards/products/star-alliance/#fn-cards-star-alliance-fast-track
「HSBC Star Alliance Credit Card」
このカードは2022年に登場し、年会費は初年度無料、2年目以降は499豪ドル(約5.4万円)となっています。
利用額に応じてスターアライアンスポイントが付与され、1豪ドルの利用につき1ポイントを獲得できます。
対象となる航空会社
本カードには、以下のスターアライアンス加盟航空会社が参加しています。
- エア・カナダ
- ニュージーランド航空
- エバー航空
- シンガポール航空
- 南アフリカ航空
- タイ国際航空
- ユナイテッド航空
獲得したポイントは、これら参加航空会社のマイレージプログラムのマイルやポイントに交換できます。
ステータス付与の条件
一定の利用条件を満たすことで、参加航空会社の中から1社分のスターアライアンスゴールド相当のステータスが付与されます。
具体的には、カード発行後90日以内に4,000AUD(約43万円)以上決済するとスターアライアンスゴールド相当のステータスを1年間付与されます。
その後は年間利用額に応じて、
- 30,000豪ドル(約320万円)以上→スターアライアンスシルバー相当
- 48,000豪ドル(約520万円)以上→スターアライアンスゴールド相当
のステータスが、それぞれ1年間付与される仕組みです。
日本人にとっての現実的なハードル
一方で、このカードには明確な発行条件があります。
- オーストラリア国民・永住者、または長期ビザ保持者
- 年間収入 75,000豪ドル以上(約810万円)
- 良好な信用格付け
これらの条件を考えると、日本に住む日本人が現実的に実践できる手段とは言いにくいというのが実情です。
それでも「評価軸の変化」は始まっている
重要なのは、単にフライトにたくさん乗ってステータスを取得するという手法そのものが、「唯一の正解ではなくなりつつある」時代に入ったという点です。
今回のANAの株主への施策は、決して修行文化を否定するものではありません。
普段からANAを利用し、実際に飛行機に乗っている人を重視する姿勢は、今後も変わらないでしょう。
ただし一方で、
- 搭乗実績
- 利用頻度
- 資産・株主としての関係性
といった要素を複合的に評価する方向へ、航空会社が舵を切り始めている兆しとも読み取れます。
実際、日系航空会社でもその変化はすでに始まっています。
ANAでは、フライト実績だけでなく、ANA PayやANA Mall、ANAカードなどを含むライフソリューションサービスの利用がステータス獲得・維持に影響する仕組みが整えられてきました。
また、JALでもJAL Life Status プログラムを通じて、飛行機に乗る回数だけでなく、JALカードや日常サービスの利用を含めた“ライフスタイル全体”で会員価値を測る方向へと進んでいます。
これは、決して「修行する人が不利になる」という話ではありません。
むしろ、
- 毎週のように飛行機に乗る人
- 出張や旅行で定期的に利用する人
- 日常生活の中で航空会社と関係を持ち続ける人
それぞれの関わり方を、異なる形で評価しようとする動きと捉える方が自然です。
まとめ|航空会社のステータスは「搭乗」だけで決まらなくなるのか
これまでのように沢山飛行機に搭乗してステータスを獲得する時代が、すぐに終わるわけではありません。
日常的に利用する人が評価される仕組みは今後も続くでしょう。
ただし、
- 株主
- 資産
- 金融サービス
- 関連サービス
こうした要素がステータスに影響するケースは、今後さらに増える可能性があります。
「どれだけ飛んだか」だけでなく、「航空会社とどう関わっているか」。
ステータスの価値基準は、少しずつ変わり始めているのかもしれません。
参考記事;
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20260130-2.pdf
https://www.sasgroup.net/newsroom/press-releases/2020/sas-launches-new-shareholder-program
https://www.hsbc.com.au/credit-cards/products/star-alliance/#fn-cards-star-alliance-fast-track
https://www.staralliance.com/en/news-article?newsArticleId=4592786



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